オタク=犯罪者ってマスコミの頭の中は20世紀のまま止まってるの?
2014年に発生した「朝霞女子中学生失踪事件」ですが、今月27日に失踪していた女の子が東中野で保護されました。事件発生からほぼ二年目にして事件は解決の様子を見せ、翌日には容疑者と思われる中野区在住の23歳の男性が逮捕されました。
事件については各ニュースサイトが詳報を伝えていますので、あえてここでは触れません。逮捕されたとはいえまだ容疑段階であり、実際の事件の内容も解明されていない中で、想像であれこれ書くのはよろしくありません。不確かながらテキストにするのは速報としての価値はありますが、推察としては何ら意味がないことです。
なら、なんでこの事件を取り上げるのかといえば、マスコミ各社の報道とネット内の動きが見事なまでに対向していたからです。
目次
■第一報は秋葉原。スマートニュースのプッシング通知の不快感
27日の夜に送られてきたスマートニュースのポップアップ通知。そこには「2年前不明の15歳少女保護、「男は“秋葉原に出かける”」」と書かれていました。
これ、JNNから提供を受けたニュースです。他のニュースも当事件を取り上げていました。秋葉原という見出しのない記事もあったのですが、数あるニュースの中で、なぜスマートニュースがJNNの報道をプッシング通知の記事として取り上げたのでしょう。
案の定、Twitterのタイムラインは「アキバ関係ない」「またマスコミによるオタク・バッシングか」という怒りと共に、スマートニュースのプッシング通知を非難する声があがりました。
その後、ニュースサイトが容疑者の嗜好やアクティビティを報道。またしても「女子高生が登場するアニメが好き」「アニメキャラクターのキーホルダーをつけていた」など、監禁の理由づけをコンテンツに結びつけるような報道が相次ぎました。
さらに容疑者が工学部に在学していたことを受け、いかにもオタクであるかのような印象づける報道が続きました。
■監禁容疑者がアニオタであってほしいという報道機関の「願望」
事件が起きると当然のように発生するのが、容疑者のSNSアカウント堀りと、容疑者の過去の同行です。
しかし、元同級生のインタビューや過去の活動を調べるにつけ、当初報道機関がアニオタらしい印象は薄れていくことになります。
大阪の地元時代は成績優秀、また大学在学時中にカナダにて飛行機免許を取得するなど、従来のオタク観とは違った容疑者の姿が浮かび上がってきました。また性格もマジメであり、監禁事件を起こすような性格ではなかったという証言が相次ぎました。
「あの子があんな事を」というのは、重大事件の容疑者にありがちな「ご近所の話」ですが、そもそもオタクらしいという話が一片も出てきません。外出時の「秋葉原へ行く」という発言と、女子高生が登場するアニメが好きというだけです。そのため、報道機関が無理矢理「犯人はアニオタ」と決めつけたいという無理矢理な姿勢が目立ち、各所で火の手があがったというのが29日までの流れです。
宮崎勤の事件以来、監禁事件の犯人といえば「オタク」というレッテルが貼られ続けてきました。
当然ですが、全ての監禁事件はオタクによって起こされたものではありません。しかし、数人のオタクが監禁事件を起こしたという事実の一部だけを切り出し、オタクは性犯罪や監禁事件を起こす人種とマスコミが煽りに煽った結果、そのような偏見が強くこびりついてしまうことになりました。
ところで、凶悪な監禁事件と知られるものに、女子高生コンクリート詰め殺人事件、北九州一家殺人事件や尼崎事件があります。
これらの犯人はオタクだったでしょうか? もちろん、答えは「No」です。
ならばなぜ、これら凶悪犯の趣味嗜好を暴き、それらの趣味を持つ人はこのような凶悪犯罪を起こすという話題にならないのでしょうか? おかしいですよね。趣味嗜好が犯罪と因果関係を持つというなら、これらの事件の犯人の趣味嗜好も公表し、防犯に役立てるべきではないでしょうか?
もちろん、そうにはなりません。
そもそも彼らが何かしらの趣味を持っていたとしても、それは普遍化した何かであり、危険な趣味とカテゴライズされるものではありません。釣り、ゴルフ、手芸、スポーツ観戦がすぐさま犯罪に結びつくかといえば、そうではないですよね。仮にその趣味を持つ人間が犯罪を起こしたとしても、個人の資質の問題で趣味のせいとはなりません。
つまり、そもそもオタク趣味そのものが「犯罪的」という観点(偏見)にマスコミは立っているわけで、宮崎勤の事件以来、マスコミはそのイメージを世間にひたすら塗布していたわけです。便利なバッシング対象として活用するために。
得体の知れない趣味を持つ、理解しがたい人達。それがマスコミが世間に作り上げたイメージです。価値観が違うので会話が成立しないおかしな人達として笑いものにし、どれだけ叩いても反撃されない存在に仕立て上げ、それらが実際のイジメなどにつながっているにも関わらずバッシングの対象として便利なため叩きに叩き貶めまくったわけです。
結果として、ニュースバリューとして活用しやすいバッシング対象としてのオタク像が造られました。
例えば「失踪少女、東中野で保護」より、「失踪少女保護。犯人は「秋葉原に行った」」と書いた方が、なぜセンセーショナルなのでしょうか? 簡単ですね。オタクは犯罪者であるというイメージがあるからです。そのため、オタクを思わせるキーワードとして「秋葉原」が有用なのです。胸くそですね。
例えば犯人はサラリーマン、犯人は大学生というだけでは盛り上がりません。彼らが一流企業や一流大学に所属するなら大衆のルサンチマンを刺激することができますが、ありきたりなサラリーマン、学生では犯罪のストーリーとしてはパンチに欠けます。同時に、サラリーマンや大学生という属性は大きすぎて叩きづらく、また同属性の人間が多いため、うかつに叩くと反発を受ける危険があります。
その点、オタクという存在は卑小で世間に理解されがたく、ゆえに叩きやすかったのです。
しかし、それも数年前までの話です。
世の中のコンテンツ嗜好や消費はダイナミックに変化しています。「アニメ好き」「アキバに行く」だけは、もはや特定の人たちを指せるものではなくなりました。「ライトオタク」なる言葉ができる程度には「女子高生が登場するアニメ」を楽しむ層は広がり、同時にオタクの定義も拡張され、ピンポイントで突けるような状況ではなくなりました。
つまりアニメ干渉やゲームといったオタク趣味も、釣りやゴルフやスポーツ観戦のように、普遍的な趣味嗜好となり、それらの趣味と犯罪を結びつけるのが難しくなってきているのです。
それでもなお、マスコミにはオタクと犯罪を短絡的に結びつけるメソッドが残っているのでしょう。あまりに不勉強としか言いようがありません。21世紀も16年がたちましたが、彼らの頭の中は依然として20世紀のまま止まってるようです。いいですね、再販制度。いいですね、電波利用権。
■オタクは小馬鹿にするためのサンドバッグではなくなった
以前勤めていた会社での話ですが、同じ部署で働いていたアニメ好きな社員に「ロリコンなんでしょ?」「女の子を監禁してそう」と言っている人がいました。
言っている方は「ちょっとキツめの冗談」のつもりだったようですが、言われている方にとっては侮辱されたも同然です。しかし残念ながら、「アニオタ」という存在は、このような暴言を吐いても許される存在として社会に認識されています。
実際、オタク趣味というだけで、いわれのない偏見や「キツい冗談」を受けた経験のある人は多いと思います。私も枚挙に暇がありません。
オタクは弱いから反撃されない。マイノリティだから叩いても許されるという考えです。これ、人種問題でやったら大問題ですよね。しかし単にマイナーな趣味を持っているというだけで、不条理にバッシングされるいわれはありません。ロリコンはともかく「女の子を監禁してそう」は冗談で済まされる話ではなく、普通に侮辱罪が適用されるレベルの暴言です。
しかし、テレビ番組をはじめとしてこれらの侮辱を平然とやっていたのが、日本のマスコミであり、その影響を受けた白痴な日本社会です。そのせいで人権団体に「アキバに児童ポルノが売られている」と利用されたり、アキバでJKが売春しているなどとおかしな話までつけられてしまっているのだからたまったものではありません。
このような偏見を作り上げたのがマスコミであるなら、その偏見を利用してニュースバリューを作りたいと思っているのもマスコミです。言い換えればマスコミのカネ儲けのために不名誉なレッテルを貼られたわけで、オタクへの偏見はマスコミ各社のいわばマーケティングの結果である言えます。
そしてこれからもこのメソッドを使い続けるため、監禁事件の犯人はオタクであってほしいとでも思っているかもしれません。
しかし、インターネットの発展で、このやり方にも限界がきてしまいました。
SNSがマーケティングや世論形成に大きな力を持つようになった現在、安易なオタクバッシングは手痛い反撃、すなわち炎上するリスクを負う可能性が高くなってきました。
叩きやすい存在であったオタクの存在は変わりつつあります。これまではどんな侮辱を受けても、はらわた煮え繰り返しながらも愛想笑いでいなしてたオタクたちが、SNSという連環を使って大きな抗議の声をあげるようになりました。
そのような怒りの声を反映し、ネットメディアでも報道に対する抗議や反発をニュースとするところが増えてきました。
29日には「オタク」であることを強調した当初の報道を否定するような記事が見受けられるようになりました。
もっとも、それら擁護記事のほとんどは中小のネットメディアがほとんどで、TV局を持つような大手マスコミ各社は当初の路線のままオタクバッシングを続けているようにも見えますが…。
■突然オタク擁護に走るメディアにも注意
大手マスメディアに対し、後発のネットメディアは小回りが利きます。新聞やTVのように積層された特定の消費層を持たない強みもあり、敏感にネットの動きを察知し「反論」が行えたのでしょう。
それはある意味マスメディアの階級闘争のようでもあり、端から見ている分には「もっとやれ」と言いたくなります。
しかし、このような動きにも一定の注意は必要です。
例えば某IT企業は、社員向けマインドセットで明確に「サブカルチャー」を否定しています。
その某社が運営するニュースサイトでも、今回の報道について「アニメファンから疑問があがっている」という内容の記事を、編集部(の記者)の文責で掲載していました。
単にネット内の動向を記事にしただけかもしれませんが、それにしてもひどい二枚舌です。
風向きが変わると率先してオタクバッシングに走るのは、そのような風見鶏メディアです。PVやサイトバリューのためにオタクを擁護するなら、同様にオタクバッシングに走ることもあるでしょう。
心中ではオタクやサブカルチャーをバカにしつつも、PVやサイトバリューのためにオタクに阿る記事を掲載しているのなら、オタクバッシングとは別の意味でオタクを利用しているとも言えますね。気をつけたいところです。
ところで、スマートニュースの本日夜のポップアップ通知は「女子中学生監禁男「女子高生アニメに熱中」アニメファン反発」となっていました(ちなみに記事提供元は東スポWebです)。
どのようなアルゴリズムで通知する記事を選んでいるのか分かりませんが、いくらなんでもマッチポンプがひどすぎませんか?
(文/赤蟹)